2009年11月3日火曜日

グレングールド『ゴールドベルグ変奏曲』~Hさんへの手紙~

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前半は、グールドを知ってから、今回の55年の録音を聴くまでです。

グールドの事をはじめて知ったのは、高校時代、「孤独の天才術」とかいう本を、本屋で立ち読みしたのがきっかけですね。そこで、グールドが取り上げられていて、興味を持ったんですね。で、確か浪人時代に彼2回目の録音のやつを買ったのかな。その時、1回目の録音のやつと、どっちを買うかを迷ったのは、覚えてますね。

・聞いてみた感想は、「ふーん、なかなか良いな」って感じでした。ま、でも、正直芸術的な意義は全然わからずに、批評家たちが伝説と言う作品を勉強した、という感じでしたね。でも、素直に良いなとは思いました。

・で、大学に入り、映画監督になるべく様々な芸術を見ているうちに、自分の中で審美眼・評価軸が出来てきまして…。

それは一言で言うと「現代は必要ない、古典だ!」。映画で言うと、ゴダールなんて必要ない、溝口、ジョン・フォードだ。文学なら、ギリシャ悲劇、シェークスピア、日本なら漱石まで、という感じですね(笑)。

なんだろう、現代の芸術って、「根っこがなく」て、「貧しい」んですよね。

浅田彰の名前も大学に入ってから知りました。ぼくは、いわゆる浅田=蓮見=柄谷ラインから、多大な影響を受けたんですが、浅田・蓮見のゴダール賛美(そして、グールド賛美)は、結局は受け入れなかった、と。

・浅田大嫌いな老脚本家(石堂淑朗)が、グールドは現代のクラシックをダメにした元凶だと言ってたのも、思い出しました。要するに「根っこがない」ってことだと思うんですが。

 ちなみにその人、小沢征爾についてもぼろくそに批判してましたね。一時期、プロ筋からかなり評判を落としてたのは、事実っぽいんですが、その辺のこと、Hさんくわしいですか?

・で、最近、無料で古今の名録音が聴きまくれるサイトhttp://www.yung.jp/index.php を見つけまして、そこで、ゴールドベルグの1回目の録音を聴いてみたと。


以上、前半終りです。

では、感想行きます。

技術的なことはわからないので、印象面の感想です。


・まず、すごく「聴きやすかった」です。厳格・敬虔なバッハじゃなくて、音楽を愛するバッハ、もっと言えば音楽を楽しんでいるバッハ像を感じました。

・そして、テンポの速さは、「衝撃的・過激さ」というより、「躍動感」という意味づけを与えたくなりました。乱暴にいうと、モーツアルトオペラを聴いているような感じです。

ジャズとかでいう、「歌心がある」って感じですね。こう書いて、突然、ソニー・ロリンズのデビューアルバムに収められている「スローボート・トゥ・チャイナ」を思い出しました。でも、あれより、何倍も「歌って」いたし、全然「アドリブ」性がありましたね。

・それから、81年の録音と比べると、原曲の不眠症の侯爵が眠れるように書かれたという趣旨に近いのは、晩年の方ですよね。でも、それも、バッハの原曲の意図に近付けた、というわけではなく、やはりすごく「自由」です。

・昔は、この演奏は、-特に81年の方-、「グールドが、己の芸術家としての信念を、深い精神性をもって表明した」、と思っていたのですが、今は少し違っていて、

「たかだか眠れない夜の慰めの為に書かれたに過ぎない曲から、その卓越した『技術』によって音楽で一番大事な歌心や躍動感を表現して見せた背後から、我知らず『深い精神性』が立ち上ってくるのが見える」

と言った方が正確なのではないか、という気がしています。。

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